夫婦が離婚を決断した時、未成年の子どもがいる場合は、父母のいずれか一方を親権者として定めなければなりません。そうでないと、離婚は成立しないからです。そのため、互いが親権を主張し、話し合いでは折り合いがつかず、子どもの親権を巡って、調停や裁判で奪い合いとなることは珍しくありません。
しかし、これとは逆に、夫婦の双方が「親権はいらない」と主張し、互いに親権を譲り合ったり、押し付け合うこともあるようです。
親権を譲り合った場合も「母親が優先」は変わらず
それでは、裁判所の判断基準はどのようなものでしょうか。まずは、裁判所が最も重要視する原則は、どちらが親権を持ったほうが、「子どもにとって幸せになるか」という子ども優先の考え方です。これらの考え方は、親権を互いが主張した場合であっても、双方が譲り合った場合でも同じです。
そのうえで、「母性の優先」という言葉がありますが、これは、親権を争う子どもが乳幼児の場合は、母親が優先されるという意味です。さらに、すでに別居している場合などは「現状維持の優先」が尊重されます。
つまり、新たな環境のほうが優れているという確証がない限り、今、子どもが暮らしている親が親権を持つべきで、このままの生活環境が維持されるべきという考え方です。
15歳程度が目安。判断力のある子どもの意思を尊重
父母どちらと暮らしたいか、その意思が確認できる年齢の子ども(15歳程度が目安)について、子どもの意思が尊重されることになります。また、15歳以下であっても、判断力があると認められた子どもに関しては、その意思が尊重されることもあるようです。
親権を父親に譲る母親のそれぞれの事情
離婚したときに未成年の子どもがいるケースでは、夫婦のどちらかを親権者に決めなければ、離婚は成立しないという話をしました。ほとんどのケースは、「母性の優先」が重要視され、母親が親権を持つケースが圧倒的に多いとされています。
これまでは、父親のほうも、現実的に仕事を抱えながらの子育ては難しいと考え、母親に親権を譲るケースがほとんどでした。しかし、最近は女性の社会進出に伴い、男性が育児に参加する割合も増加傾向にあり、親権を渡したくないと考える父親もいます。
恋愛に夢中になってしまい
まずは、恋愛相手に遠慮して、子どもを連れて行きにくいというケースです。離婚の原因は妻の浮気や不倫で、妻が夫よりも好きな人ができた場合、子どもを連れて家を出るケースもありますが。恋愛相手が子どもが嫌いだった場合は、連れて行きにくいケースも考えられます。
バリキャリ妻が仕事を優先
人生の中で、仕事を最優先してきた場合、離婚したとたんに、キャリアをあきらめて子どものケア優先に切り替えることは難しいと言えます。離婚をきっかけに、さらに職場でバリバリと働いて、社会に評価されたいと願うキャリア志向の女性は、子どもの親権を求めない場合があります。
日本の会社では、まだ長時間労働が当たり前になっている職場も多く残っています。そうなると、保育園の送り迎えや、急な発熱、ケガなどで幼稚園や学校に行かなければならなくなると、職場で重要な仕事を任されなくなるのではないかと不安になることもあるようです。
夫より先に再婚したい
「子どもがいることで、恋愛がやりにくく、再婚の障壁になる」と考えがちです。子どもの親権を夫に渡しておけば、夫も仕事と子育てで自分の時間を持つ余裕がなくなり、夫よりも先に自分が幸せをつかめると考えると考える人もいるかもしれません。
心身の健康問題で子育てがつらい
なかには、精神的、また肉体的な健康問題を抱えていて、子育てを続けていくことが難しいという場合もあります。実家の親が助けてくれれば、何とかなるかもしれません。しかし、何らかの理由で、それが期待できない場合は親権を夫に譲ったほうがいいと判断することもあるでしょう。
精神的な持病を抱えている場合は、子育てに自信がもてなくなり、手放したくないけれども、親権をあきらめる場合もあるでしょう。また、深刻な疾患を抱えている場合も、夫に託したほうがいいと判断する可能性もあります。
夫のDVやモラハラが引き金なのに
こうした心身の健康に問題を抱えた原因が、夫のドメスティック・バイオレンス(DV)やモラルハラスメント(モラハラ)だった場合は、悔しくて諦めきれないでしょう。ただ、心身の健康にトラブルを抱えている場合は、まず、治療に専念し、健康を取り戻すことを考えるほうがいい場合もあります。
親権者がいない子どもは後見人を選任
民法の規定では、未成年者の場合、本来、法定代理人となるべき親権者がいないとき、または、親権者に財産管理権がないときは、後見人が置かれることになります。
主に、親権者の死亡などのため未成年者に対し親権を行う者がない場合に、家庭裁判所が申立てによって未成年後見人を選任することになっています。夫婦ともが、子どもを譲り合った場合、家庭裁判所で親権者がいずれかに決まれば問題が解決するというわけにはいきません。
子どもの親権を譲り合ったということは、子どもの面倒を見ることが何らかの理由で十分にできない可能性があるからです。親権者がどちらかに決まったとしても、父母以外の監護者を決めておくことを検討する必要があるかもしれません。
そもそも、監護権は、親権を構成する権利のひとつです。保護者の未成年者に対する権利として、民法で規定されています。また、監護権は義務であり、監護を怠ったために、子どもの身体や生命、安全に危険が生じた場合は「保護責任者遺棄罪」に問われるケースも出てきます。
監護者の候補として、祖父母や叔父・叔母などの親族がありますが、親族の中に適任者が存在しない場合は、児童養護施設を監護者に選定することもあり得ます。
親権を失っても養育費の支払い義務はある
勘違いしてはいけないのは、親権と養育費の関係です。親権を放棄したからといって、養育費を払わなくてもいいということでは決してありません。養育費の支払いは離婚しようと、親権を放棄しようと、変わらず親の義務なのです。
離婚した後も、子供の健全な育成のために、双方が協力して養育費を支払っていかなければいけませんが、もしも離婚した元配偶者の養育費支払いが滞った時、どうするかも考えておいた方が良いでしょう。
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まとめ
「親権はいらない」離婚夫婦の双方が主張した場合
- 親権者が決まらなければ、離婚はできないので、必ずどちらかに決めなければならない。
- 子どもの面倒を見ることが何らかの理由で十分にできない可能性があるため、親権者とは別に監護者を決める必要がある。
- 監護者は祖父母や児童養護施設に選定する場合もある。
父母が離婚を決断すると、親権者をどちらにするかを決めなければなりません。どちらかに決まるまで、離婚は成立しません。これまでは、仕事を持っている父親が親権を持って子育てと両立するのが困難であるとの理由で、母親が親権者となることが多くありました。
最近は、父親だけでなく、母親も仕事を持っているために、子育てとの両立が難しかったり、主に父親が家事や育児をしてきたために、離婚の際も親権を主張するケースが増えているようです。
しかし、これとは反対に、父母の双方が親権を譲り合うケースもあります。親権を奪い合うことは悲しいことですが、親権を押し付け合うことよりはまだ良いと考えられるかもしれません。
女性の中で、親権を夫に渡したいという人の理由はさまざまでしょうが、子どもの親権を放棄するということは、養育費の支払い義務が発生するということを覚悟すべきです。親権を争うのも譲り合うのも、「子どもの幸せ」を第一に考えて決めるということが基本です。