夫が、妻が、教育虐待!「子供のため」に騙されず、適切な行動を

父親や母親が教育熱心な家庭は珍しくありません。しかし、教育熱心が行き過ぎてしまうと、教育虐待につながってしまう危険性があります。自分の配偶者が、子供の心や体を傷つけてしまう前に、適切な判断と行動を取ることが求められています。

どこからが教育虐待?子供の忍耐限度を見極める!

テレビのワイドショーなどで、「教育虐待」という言葉を聞くことが多くなりました。この言葉は、2011年12月に、一般社団法人「日本子ども虐待防止学会」で取り上げられ、児童虐待の一つとして指摘され始めました。

具体的には、「子供の受忍限度を超えて勉強させるのは教育虐待になる」と言う意味です。2016年8月、名古屋で中学受験勉強中の男児を、その父親が包丁で刺し殺す事件が起こるなど、子供の身体や精神に極めて深刻な事態を引き起こしかねない問題として、意識されるようになりました。

実は、子供の受験勉強が原因で、親が子供を傷つける悲劇は、今に始まったことではありません。受験戦争という言葉があった昭和の時代も、家庭内での教育をめぐる問題は深刻でした。学歴一辺倒の時代ではなくなったにもかかわらず、教育虐待は深刻化しています。

ママ友の会話に影響…実は自分の見栄のため

夫や妻の教育虐待は、一筋縄では止まりません。もし、止めようとするならば、「子供の将来のため」という大義名分を振りかざし、賛同しないのは、親として失格だとも言いかねないからです。

しかし、本当に子供のためだけなのでしょうか。実は自分の人生を子供に重ね合わせ、自分のプライドや見栄を満足させたいがために、勉強を無理強いしていることはないでしょうか。


妻の子供への教育虐待に悩むAさん

自分の行為が虐待であることに気づかない妻

「のびのび育って」が、「最低でも有名私立」へと豹変

中学受験を控えた息子がいます。妻は、会社のエリート層を相手に、秘書業務をしています。周囲の人間はほとんどが高学歴で、高年収です。高学歴の人間とばかり付き合っているせいか、高学歴ではない人の人生について、考えられなくなっているようです。

「人の痛みが分かる子に」と言っていたのに…

妻は、子供が生まれる前は、高学歴の人たちの上から目線の態度を嫌がり、「子供にはのびのび育ってほしい。人の気持ちや痛みが分かる人になってくれたら」と言っていました。

しかし、いざ子供が生まれると、その考え方は大きく変わりました。小学校3年生になると、「最低でも有名私立に行ってもらわないと」と、有名私立受験専門の学習塾へ通わせるようになったのです。妻が豹変した背景には、ママ友や職場の同僚など周囲の声に左右されたことがあると思っています。

しかし、子供はそれほど受験勉強に興味があるわけではなく、友達とスポーツを楽しんだり、ゲームで遊ぶことが好きです。妻は子供をその気にさせるために芸能人など受験に成功した他人の子供を褒めます。その褒め方が大げさすぎるので、子供にとっては自分と比べられているように思えて、嫌がっていました。

大事なゲーム機を壊され、子供に不信感

子供は親に褒められたいから、頑張るものです。しかし、なかなか結果が出ないと、続けていくのが辛くなります。自分の思うようにはいかなくなると、妻はイライラを募らせ、子供に対して辛く当たり始めました。

例えば、ゲームを取り上げたり、子供の前で壊したり、子供に負荷を与えることで、勉強をさせようとしました。しかし、子供は自分の大事なものを壊されたことで、母親への不信感を募らせます。

「お母さんを喜ばせたらどうなの」

子供が勉強を強いられることを嫌がっても、「あなたの将来のため」と言って、無理強いを止めません。子供は自発的に勉強するわけではないので、成績が思うように上がりません。

「勉強をしたら何かを買ってあげる」とか、「成績が上がったら、おいしいものを食べさせてあげる」など、子供のモチベーションを上げるために、さまざまなアメとムチを繰り出します。

しかし、勉強を押し付けられている限り、成績は上がらないもので、模擬試験などのテストの結果も伸びません。すると、妻はついに本音を漏らします。「少しはお母さんを喜ばせてくれたらどうなの」と。結局、子供のためではなく、自分のためなのです。

「夫が子供を甘やかせるから」

夫である私は、なるべく子供の気持ちをフォローしようとしていますが、妻の暴走を止めるまでの力はありません。妻は「子供の将来のためを思って、やっていること」という大義名分がある限り、自分の行為が虐待であることにまったく気付きません。

それどころか、子供の学習成績が上がらない原因についても、夫である私が子供を甘やかすからと責任転嫁します。妻はキャリアウーマンで経済力も人並み以上なので、他人の言うことには聞く耳をもちません。

ブレーキを失った妻の暴走はエスカレートします。このままでは、子供の心と身体に悪影響を及ぼしかねません。

教育虐待が目に余る場合は離婚も視野に

子供に対する教育虐待がエスカレートすると、大惨事への引き金になりうることは、これまでの数々の事件が示しています。しかし、教育虐待は、暴力を伴うものでない限り、問題を指摘することは難しいと言えます。

親子で志望校合格を勝ち取った話題などが、メディアに美談として取り上げられるなど、教育熱心と教育虐待の境目もあやふやです。前述の言葉の定義でいうと、「子供の受忍限度を超える」ということになりますが、子供は親に認められたいという「承認欲求」を持っているので、子供の我慢の限界を見極めるのは難しいと言えます。

とはいえ、子供からさまざまなサインが発せられ、配偶者の「しつけ」と称する行為が、深刻な虐待へと踏み込んでしまっていると判断されるときは、離婚も含めた適切な対応をする必要があります。

子供に固執しているだけに、離婚のハードルも高い

育児放棄などのネグレクトや、イライラを発散させるための虐待とは違い、教育虐待をする親は、子供への依存や執着が強く、離婚してもすんなりと親権を取れるかどうかは不透明です。

親権を取れずに、離婚してしまうということは、教育虐待をする親の元に、子供を置いていかなければならいということです。唯一の盾を失った子供の将来は不安で、離婚に踏み切る決断は極めて難しいと言えます。

まとめ

教育虐待が子供にとって辛いのは、安らぎの場であるはずの家庭で行われるこということです。学校や塾など、家の外でもストレスを抱えた子供にとって、家庭でもストレスを味わうことはとても辛いことです。

子供に対する教育虐待は、極めて難しい問題であると言えます。ただ、テレビのワイドショーなどで、「教育虐待」の問題を指摘することが多くなったことが、教育虐待をしている親本人に気付きを与えるきっかけになることが期待されます。

夫や妻のやっている行為が「教育虐待」ではないかと疑われる場合は、家の中だけで抱え込まずに、児童相談所など外部の専門機関に相談することが大事です。教育虐待をしている親本人は「子供のために正しいことをやっている」と信じ込んでいるので、その価値観を見直してもらうことが、解決への近道です。