子育て中の男性が職場で嫌がらせを受けることをパタハラ(パタニティ・ハラスメント)と言います。パタニティとは、父性を意味します。育児休業取得を拒んだり、育児休業取得を理由に降格させるなどといった行為が典型ですが、こうした具体的な行為がなくとも、職場で無視されるなどの陰湿な嫌がらせも増えているようです。
しかし、日本では男性の子育て参加がまだ多くなく、女性の妊娠・出産に伴う職場での嫌がらせであるマタハラ(マタニティ・ハラスメント)に比べると、問題の深刻さが広く知られているとは言い難いようです。
家庭と職場で居場所喪失、男はつらいよ!
夫婦の間でも、パタハラの問題がマタハラよりも深刻に考えられていない場合、悲劇的な事態になる恐れがあります。妻側にパタハラに関する認識が乏しいと、夫の職場での辛い立場を理解することができず、家庭でも子育てや家事の負担を重くするなどのストレスを与えてしまうこともあるようです。
パタハラに苦しむ夫は、職場では相談できる人があまりいません。男性の子育ての歴史が浅く、シングルファーザーの人をのぞいて、仕事と家事や育児の間で格闘した経験がある上司や先輩が少ないからです。
家庭で、妻に悩みを打ち明けて、理解してもらえると救われるのですが、妻にそういった理解がない場合は、夫は家庭と職場の両方でストレスを抱え、メンタル的に不調に陥ってしまうケースもあるようです。
家庭内の経済戦争に疲れ、メンタルダウン
共働きの家庭の場合、妻が育休や産休を取得するケースが多いですが、夫も育休を取得し、育児や家事を分担するのが理想的です。しかし、男性の育休を推奨するどころか、いまだに長時間労働を強いて、事実上、育児参加をできなくしている職場も珍しくありません。
妻がバリキャリの場合、自分は育休や産休を取って、出世のハンディを背負ったのに、夫だけ仕事に専念することを是としないケースもあるようです。「なぜ、育休を取らないのか」「せめて早く帰宅すべき」と正論で迫られると、夫は板挟みに苦しみます。
職場と家庭でハラスメントを受ける男性
複数の証券会社を渡り歩いたキャリア志向の妻は、30代半ばで結婚し、すぐに妊娠・出産しました。産休や育休はほとんど取得せずに、私立の保育園に預け、職場復帰を果たします。会社内での出世競争で不利になることを避けるためでした。
妻は残業を厭わず上司にアピール、保育園の送り迎えは夫の仕事に
職場では、残業も厭わず、仕事に打ち込む姿勢を上司にアピールするなど、出世争いを仕掛けます。保育園の送り迎えをやっていたのも最初のうちだけで、そのうち、所定時間内に迎えに行けず、夫である私の携帯電話に保育園から連絡が来ることが多くなりました。
私は職場から自宅に戻る所要時間が30分程度だったので、いったん職場を抜けて保育園に迎えに行き、食事を食べさせ、妻が帰宅するのを待って、再び職場に戻るという生活を繰り返していました。
保育園のお迎えに横やり…パタハラに耐える毎日
そういう仕事ぶりを見て、嫌がらせをする会社の上司や先輩もいました。保育園の迎えの時間は、同じ子育て中の同僚に仕事をカバーしてもらっていたのですが、別の先輩が上司に告げ口し、上司はその同僚を、私の仕事をカバーできないグループに異動させました。
そして、保育園に迎えに行かなければならない時間になると、仕事を持ってきたり、「(その仕事は)後でやります」と言って、保育園に迎えに向かっている際中に、わざわざ問い合わせの電話を何度もしてくると言った具合でした。
妻の長時間労働が過熱…夫は心身ともに不調に
一方、私がパタハラに耐えながら保育園の迎えをやるようになると、妻は気兼ねなく残業するようになりました。しかし、妻が遅くとも夜の8時くらいには帰宅してくれないと、私は小さい子どもを置いて職場に戻ることができません。
ある日、会社からの問い合わせに対応しながら、保育園から連れ帰った子供の食事の支度をしていると、激しいめまいと吐き気や下痢に襲われるようになったのです。その日から、メンタルや体の健康が不調になり、さらに仕事も家事、育児も能率が落ちるという悪循環に陥ってしまいました。
育休ではなく、病気による休職に追い込まれ
私はついに、病気を理由に半年間休職することになりました。その間、家事や育児に専念できたのは良かったのですが、職場での私の評価は取り返しがつかない状態になってしまいました。
それとは対照的に、子育て中にもかかわらず、仕事をしっかりこなしたということで、妻の評価は上がり、昇進、昇給と出世街道を走っていきます。妻は、職場での経済戦争を勝ち抜いた勢いで、家庭内でも支配を強めていきました。
「家事や育児は、仕事ができないほうがやるべきだ」と言ってかばかりません。ますます、家庭のことは夫任せになっていったのです。
それだけではありません。「あなたはコミュニケーション能力が低いから、上司に理解してもらえない」「性格が暗いから、パタハラされやすい」などと言いたい放題になり、家庭でもモラハラ(モラルハラスメント)を受ける羽目になっていったのです。
このままでは心身ともに疲れ切ってしまうので離婚したいと思うが、男性が子供の親権を取るのは難しいといわれているし…。
イクメンの地位は向上していくけど…
最近、パタハラに悩む子育て中の男性たちが、SNSなどで職場での不当な扱いについて発言する動きが出てきたようです。
「男は仕事、女は家庭」という価値観を教え込まれて育ち、職場でも長時間労働を推進してきた世代の男性たちがリタイアし、子育て参加を当たり前のようにしてきた世代が職場の中心になり、女性の管理職が増えていけば、パタハラを問題視する声は強まっていくことは間違いありません。
しかし、働き方改革の重要性が叫ばれ、長時間労働による問題点が指摘され続けても、なかなか問題解消へ向けた動きが加速しなかったように、イクメンの地位向上にも時間がかかる可能性があります。
まとめ
日本は少子高齢化問題を抱え、労働生産人口(働き手の世代の人口)の減少が日本経済の将来に影を落としています。こうした問題を解決するには、長時間労働に頼っていた従来の働き方を改める一方で、家庭では父親、母親がともに子育てや家事をこなすようにならなければなりません。
女性の社会進出が進み、若い世代の男性の子育ても増えています。遅かれ早かれ、パタハラはマタハラと同様に問題視され、イクメンの地位は改善することが期待されます。しかし、それでも、夫婦間の問題は残ります。家庭内の問題を解決するには、夫婦が仕事と家庭のバランスをうまくとり、どちらか一方に負担が偏らないようにするよう、互いに相手を思いやることが必要になるでしょう。