16年ぶりに養育費の算定基準を見直し

夫婦が離婚する際に決める子どもの養育費について、2019年12月、最高裁司法研修所は社会情勢の変化などを踏まえて算定基準を16年ぶりに見直しました。これまでの基準では、養育費が低額すぎるとの指摘に対応し、増額されています。夫婦の収入の条件によっては、月1万~2万円程度の増額となるケースもあります。

生活に余力がなくても、親と同じ生活水準を保障

養育費の算定基準の見直しについて説明する前に、養育費とは何かをおさらいします。養育費は、子どもを監護・教育するために必要な費用のことです。一般的にいえば、経済的、社会的に自立していない未成熟子が、自立するまで要する費用です。具体的には、生活に必要な経費や教育費、医療費などが含まれます。

未成熟の子どもに対する養育費の支払義務は、親の生活に余力がなくても自分と同じ生活を保障するという強い義務を持っているとされています。例えば、自己破産した場合でも、子どもの養育費を支払う義務はなくなりません。

2011年に民法が改正され、面会交流(離婚後に子供を養育・監護していない方の親によって行われる子どもとの面会、交流のこと)と、養育費の分担がはっきりと示されました。

養育費の請求権は子どものためのもの

コロナウィルスで世界中が不景気になった時、日本ではシングルマザーの生活が困窮に陥りました。仕事が減り、さらに学校が休校になることにより給食が食べられなくなり、子供食堂で食いつないだという話も聞きます。

こんな話を聞くと、父親はなにをしてるのか!と私は思ってしまいます。

養育費の請求権は、子どものための権利です。離れた親との関係を大事にするためにも、離婚をする時に取り決めることが大事です。養育費の決め方としては、夫婦など関係者の話し合いで決めるのか、家庭裁判所の調停や審判で決める方法があります。

夫婦が離婚するとき、子どもの親権者を誰にするのかを決める必要がありますが、その作業と平行して、養育費の金額や支払時期、支払期間、支払い方法などを取り決めます。話し合いによって、納得のいく形で決まることが理想的です。費用や手間はかかりますが、公正証書にしておくと、不払いになった場合に差し押さえなどがやりやすくなります。

話し合いで決まらない場合などは、家庭裁判所の調停で話し合いの場を持ちますが、それでもまとまらない場合は、家庭裁判所の審判で養育費を決めます。家庭裁判所の調停や審判で決まれば執行力のある債務名義と同じような効果があるので、差押えも可能です。

子どもにもスマホが普及、通信費など増加を考慮

離婚に伴い、子どもの養育費を決める際には、裁判官らの研究会が2003年に公表した「簡易算定方式」に基づく算定基準が使用されてきました。夫婦の収入と子供の年齢や人数に応じて、子どもと離れて暮らす親が支払うべき養育費の目安が表になっています。

従来の算定基準が公表から16年が経過し、スマートフォンの普及に伴う通信費支出の増加などを考慮し、税率や保険料率を最新のデータに更新して計算方法を新しくした。2022年4月の改正民法の施行で成人年齢が18歳に引き下げられる予定ですが、今回の司法研究の結果では、「養育費の支払いは現行通り20歳まで支払うべきだ」としています。

算定基準は、あくまでも目安なので、表の通りに決める必要はありません。ただ、この目安に従って決めていくと、取り決めがスムーズに進むことが期待されます。

子どもの数と年齢、親の年収で養育費を算出

養育費の算定基準の表は、子どもの数ごとに分かれていて、縦軸に義務者(養育費を払う側の親)、横軸に権利者(養育費を請求する側の親)の年収(給与所得、自営にケース分け)を示しています。いくつか具体例を示してみます。

ケース1

子ども(0~14歳)1人で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額4~6万円を目安としています。

ケース2

子ども(0~14歳)1人で、義務者が年収900万円の会社員、権利者が年収0円の専業主婦の場合、養育費は月額10~12万円を目安としています。

ケース3

子ども(0~14歳)1人で、義務者が年収400万円の自営業、権利者が年収0円の専業主婦の場合、養育費は月額6~8万円を目安としています。

ケース4

子ども(15歳以上)1人で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額6~8万円を目安にしています。

ケース5

子ども(0~14歳)2人で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額6~8万円を目安にしています。

ケース6

子ども2人(第1子15歳以上、第2子0~14歳)で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額8~10万円を目安にしています。

ケース7

子ども(15歳以上)2人で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額8~10万円を目安としています。

ケース8

子ども(0~14歳)3人で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額8~10万円を目安としています。

ケース9

子ども3人(第1子15歳以上、第2子、第3子は0~14歳)で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額10~12万円を目安としています。

ケース10

子ども(15歳以上)3人で、義務者が年収500万円の会社員、権利者がパートなどで年収100万円を得ている場合の養育費は月額10~12万円を目安としています。

生活状況の変化に伴い、増額や減額の申し立ても可能

養育費は、長い年月継続するものなので、収入が変わったり、社会情勢が変わったり・・・。以前に決めた養育費が実情に合わなくなることもあります。権利者の親の立場に立てば、子どもの成長や病気など監護費用が増大することもあります。義務者側の親の立場に立てば、不景気により減収となる場合もあります。

これらの場合、増額や減額について、話し合いで養育費額の変更を決めることが可能。話し合いができない、または話し合いにならない会いたくないなどの場合は、家庭裁判所に申し立てることができます。

まとめ

社会情勢の変化に合わせて、16年ぶりに養育費の算定方式が変更され、おおむね増額されています。親にとっては、子どもの生活を保障し、心の成長を支えることは、離婚後も当然の責任として残ります。

養育費は、形式的に別れた親に支払うことが多いですが、本来は子どものためのものです。権利者側の親も義務者側の親も、子どものためのお金であるということを忘れないことが大切です。

今養育費を受け取っていない人には、子供のために請求する努力をして欲しいと、強く思います。