婚姻費用算定表16年ぶり見直し。ケース別金額を試算

家庭裁判所の離婚訴訟における養育費の標準算定方式が見直されたのに伴い、夫婦間の婚姻費用を算定をする際に活用されている標準算定方式や算定表も見直されました。2003年の公表以来、16年ぶりに改定で、現代社会の実情を反映して、多くのケースで増額となっています。

法律上、婚姻費用は夫婦が分担する

婚姻費用は、簡単に言うと生活費用のことです。具体的には、食費、被服費、住居費、水道光熱費、医療費、生活雑費ほか、夫婦に子どもがあれば、その生活費、教育医療費なども必要になります。

民法760条(婚姻費用の分担)では、婚姻費用は、夫婦がその負担能力(収入など)に応じて、分担する義務を負っていることを謳っています。つまり、結婚しているとき、夫婦は同居し、互いに助け合って共同生活を送ることが基本です。

夫婦関係が亀裂すると、「婚姻費用」が大問題に

夫婦が婚姻費用を分担することは、法律のことをあまり知らなくても、夫婦関係が円満であれば、無意識のうちに行なわれていることが多いです。つまり、逆に言うと、夫婦が順調に結婚生活を続けている限り、婚姻費用の分担が問題になることは少ないと言えます。

ただし、何らかの事情により、夫婦関係を送っていくことが難しくなり、夫婦の双方、またはどちらかが離婚を意識し始めたり、どちらかが家を出るなど、別居状態に突入してしまったりすると、「婚姻費用の分担」は重要な問題として浮上してくるのです。

婚姻費用算定表を目安に金額を試算

もし、離婚を視野に別居することになった場合、婚姻費用の額はどのくらいになるのでしょうか。月額の婚姻費用の金額については、夫婦間で話し合い、それでも決まらない場合は裁判所に対して調停を申し立てることになります。調停でも決まらない場合は、家庭裁判所の審判によって金額を決めます。

婚姻費用の金額を決める際、夫婦の収入、子どもの人数、それぞれの子どもの年齢などを総合的に考慮して決められます。決める際の金額の目安になるのは、裁判所が標準的な生活状況を想定して作成した「婚姻費用算定表」です。

2019年12月、司法研究の研究員による研究結果を踏まえ、「婚姻費用算定表」の数字が16年ぶりに見直されました。権利者が、別居した義務者に対して、婚姻費用を求める場合を例にあげ、それぞれのケースによって、具体的な金額を見てみましょう。

ケース1

権利者は給与所得者であり、前年度の源泉徴収票上の支払金額(年収)は240万円でした。一方、義務者は給与所得者であり、前年度の源泉徴収票上の支払金額(年収)は、740万円でした。

権利者には子どもがいないので、婚姻費用・夫婦のみの表を選びます。横軸の権利者の年収「給与」の欄には「225」と「250」がありますが、年収240万円は「250」に近いことから、「250」を基準に考えます。

同じように、義務者の年収は縦軸上の「給与」の欄の「750」を選びます。横軸の給与の250と縦軸の給与の「750」がクロスしてエリアを見ると、「8~10万円」の枠内に収まります。したがって、標準的な婚姻費用はこの枠内ということになります。

ただ、算定表はあくまでも目安で、最終的な金額はさまざまな事情を考慮して決められます。

ケース2

義務者は給与所得者で年収900万円、権利者の年収は0円で子ども(0~14歳)が1人の場合の婚姻費用は月額「18~20万円」が目安になります。

ケース3

義務者は自営業で年収930万円、権利者は給与所得者で年収100万円、子ども(0~14歳)が2人の場合、婚姻費用は月額「26~28万円」が目安になります。

ケース4

義務者は給与所得者で年収930万円、権利者は給与所得者で年収240万円、子ども(15歳以上)2人の場合、婚姻費用は月額「20~22万円」が目安になります。

ケース5

義務者は給与所得者で年収は600万円、権利者は給与所得者で年収240万円、子ども(15歳以上)3人の場合、婚姻費用は月額「14~16万円」が目安になります。

婚姻費用分担請求のタイミングは?

婚姻費用は、権利者が婚姻費用の分担を請求したときから、相手側に義務が発生するという考え方が基本です。つまり、義務者となる相手側が家を出て行ったり、生活費を支払わなくなった場合に婚姻費用分担を請求し、そのときから必要な婚姻費用を支払ってもらうのがベストのタイミングです。

また、夫婦が一緒に暮らしていても、相手側が収入を一方的に管理していたり、十分な生活費を定期的に渡していないような場合では、同居中でも婚姻費用分担請求が認められるケースが多いとされています。

過去にもらえるはずだった婚姻費用を、後になってから請求する場合、認められるのは難しいとされています。このため、婚姻費用分担請求はその事象が発生した時点で、できるだけすみやかに手続きを進めることを考えるのが得策です。

ただ、手続きが遅れた場合でも、例外的に請求が認められたり、財産分与や慰謝料などを決める際に、未払い部分が考慮される可能性があるので、きちんと記録しておくことが大事です。

婚姻費用分担請求の期間は、基本的には「離婚が成立するまで」か、「元のさやに収まり、同居するまで」というのが一般的です。離婚が成立すると、婚姻費用の分担義務が消失し、子どもがいる場合は養育費という形で支払われることになります。

婚姻費用が認められない場合

結婚関係が破綻に至る原因をつくった側が、婚姻費用を請求した場合は認められないケースがあります。例えば、自分が不倫をしたために結婚生活が破綻してしまった場合や、自分がギャンブルなどの浪費をしたために家計を破綻に追いやった場合などについては、原因を作った側からの婚姻費用の請求は難しいでしょう。

ただ、婚姻費用の中には、子ども(未成熟の子)の養育に関する費用が含まれており、この部分については、認められるのが基本です。つまり、子どもの養育は親の義務であり、別居や婚姻の破綻に至る事情やその理由に関係なく、養育費部分は支払う義務が生じます。

まとめ

夫婦関係が破綻するきっかけとして、「お金」が原因になるケースも少なくありません。夫婦関係が良い時は、お金の管理が適切になされていて、家計に不自由がないことが多く、「婚姻費用の分担」を意識することもなく、実際、別居や離婚に向き合うまで「婚姻費用」という言葉も知らない人がほとんどです。

女性の社会進出が進む中で、現代の夫婦は「お金」や「家事」の役割分担に関する考え方も変わっています。家庭を円満に運営していくためには、「家計」「家事」「育児」などについてどのように分担していくべきなのかは、普段から話し合える環境を作っておき、互いに感謝し合える関係を築いていくことが大事です。