子どもが小学生に入学してからは、夫婦の教育方針の違いが出てくるケースがよくあります。中学受験をするかしないか、または、その後の将来の進路について、夫婦の考え方に違いが出て、どちらも譲らない場合は深刻な対立に発展する恐れもあります。こんな時、割を食うのは子どもです。
あなたは教育ママ?それとも教育パパ?
子どもに高学歴をつけてもらいたいと考えて、受験勉強をさせるのは、母親であるケースと、父親であるケースがあります。母親のほうが、父親よりも多いようですが、どちらの場合も、子どもが進んで勉強する場合と、そうでない場合があります。
また、子どもが積極的に勉強をしても、成績が上がって結果を伴うケースと、そうでない場合があるのも事実です。 「子どもに幸せな人生を送ってほしい」。子どもに受験勉強を強いるのは、子どもに対する愛情があるからだと思っている母親、父親がほとんどでしょう。
しかし、本当にそれだけの動機なのでしょうか。子どもが、受験勉強を強いられていることに疑問を抱き始めると、明確な解答が見つからない限り、悩み続けます。
「自分はどうして、遊んではいけないのか?」
「勉強、勉強の毎日で息が詰まりそう」
こんな疑問に対し、親はどう答えますか。
ましてや、夫婦で子どもの教育に対する考え方が違う場合は、受験勉強ばかりの教育に反対する立場のパートナーにも、「なぜ、受験勉強ばかりを強いるのか」という理由を説明しなければなりません。でも、それが理解できる納得できる解答は、なかなか聞くことができません。それは、唯一無二の絶対的な答えがないからです。
「なぜ、受験なのか」自分自身にも説明できますか?
夫でも、妻でも、もし自分が子どもに受験勉強を強いるタイプの親なら、「なぜそうなのか」を自分自身に問いかけてください。
親自身が、子ども時代に望む学校に進学できずに、大人になってからも学歴コンプレックスを抱いていた場合、「子どもには自分と同じような悔しい思いをさせたくない」と考えて、受験勉強を勧める人もいるでしょう。
または、高学歴の知り合いが、お金持ちになって幸せそうな生活を送っているのを羨ましく感じて、自分の子どもにも同じような生活を送ってもらいたいという理由から、受験勉強を勧める人もいるでしょう。
または、自分の周りの人たちに、自分の子どもが「○○学校に合格した」と自慢したいから、もしくは、自分の周りの親たちも、子どもに受験勉強をさせているから、といった理由で、自分の子どもに受験勉強を勧める人もいるでしょう。
いずれの理由にしても、「なぜ、受験なのか」という疑問に対する解答になっているとは思えません。
親が他人と比べ、受験に熱心に
このように「なぜ受験なのか」を親が自分自身に問いかけてみると、他人(他人の子ども)と比べていることが動機であることが考えられます。負けなくないという競争心を持つのが、子どもではなく、親であると厄介です。
子ども自身が友達と比べて、良い成績を取りたいと勉強を頑張ることは、動機づけとしては自然です。友達に負けたくないという動機で勉強を頑張って、合格を勝ち取る子どももいるでしょう。
ひと昔前の「受験戦争」と呼ばれた時代は、子ども同士の競争が過熱したことによる悲劇もありましたが、今の「お受験」による弊害は、どちらかと言うと、親が他人と比べて、親自身が受験に熱心になってしまうところにあるように思います。
子供に苦労させたくない。不安心理が駆り立てる
別のタイプの動機としては、「子どもには苦労をさせたくない」という親の不安が受験に駆り立てているケースです。この場合、親が「学歴コンプレックス」を抱いている場合や、「自分の人生がうまくいっていないのは学歴が高くないからだ」と思ってしまったり、逆に、「学歴さえあれば人生は成功できる」と過度な期待を寄せてしまうようなケースが多いように感じます。
しかし、実際のところ、高学歴が必ずしも人生の成功に結び付くとは限りません。高学歴でも、人とのコミュニケーション能力が低いがために人間関係でつまずいたり、うまくいかなかったときの立ち直り方がわからなかったり、少し注意されただけで落ち込み過ぎたり、逆ギレしたりする人も少なくありません。
とくに、日本経済が成長していた時代は、学校を出て、会社に入って、まじめに仕事をしていれば、順調に給料があがっていくパターンが多かったので、高学歴が高収入に結びつく確率は今よりも高かったかもしれません。
でも、日本経済の成長時代が終わり、企業の競争が国境を越えてグローバルに展開する時代に入ると、「会社に入って真面目に働けば、給料が上がる」という人生の成功の方程式が通用しなくなっているのも事実です。
デジタル時代に入り、新しい産業が生まれる速度も速くなり、淘汰される会社も出てきます。これからは、「いったん会社に入れば、一生苦労しなくていい」という人は、ほんのひと握りになってくるかもしれません。
苦労を厭わず、自分で学ぶ子どもに
そんな時代になってくると、「受験勉強で優秀な成績を収めれば、将来は安泰に暮らせる」という人もひと握りになってくるでしょう。
では、子どもにとって、何が重要になってくるのでしょうか。世の中の変化のスピードが速くなってくると、その変化への対応能力が問われます。すなわち、新しいことを身に付けるのが上手な子どもです。
新しいことを身に付けるにも、個人差があります。子どもにとって得意分野がちがうだろうし、技術の身に付け方も違います。物覚えが早い子どももいるし、物覚えは遅いけど、いったん覚えると、その応用の仕方が上手な子どももいます。
どちらがいいとは言えませんが、大事なことは、面倒くさがらずに、または、失敗を恐れずに、自分で新しいことを吸収しようとする気持ちです。もちろん、ひとつのことを極めていくことも大事です。しかし、物事を極めていく作業の中にも、新しいことにひるまずに、挑戦していく気持ちが重要になってくるはずです。
まとめ
このように、親が一生懸命になって、子どもに受験勉強を勧めても、学歴の高さが子どもの幸せを約束するパスポートになりえないことは明らかです。もちろん、勉強が優秀で、他のことも上手にこなす子どももいるので、受験勉強を頭から否定してしまう必要はありません。
また、子ども自身が医者になりたいとか、教育者になりたいとか、さまざまな夢を叶えるために受験に取り組んでいる場合は、応援してあげることも大事です。しかし、子どもが勉強の面白さに目覚めるより先に、親が学歴を目当てにシャカリキになってしまうのはどう考えても不自然です。
子どもの教育方針で夫婦が対立した時は、話し合うことが大事であることは言うまでもありません。しかし、受験での成功が子どもの人生の成功を約束するもの(もしくは成功の確率を高めるもの)と信じ切っている夫(妻)に対しては、どう説得しても理解を深めるのは難しいでしょう。
夫(妻)が、子どもに受験勉強を勧める理由は何ですか?という答えを一緒に考えてみると、教育方針の違いを乗り越えるきっかけになるかもしれません。