離婚をする前の準備期間として「別居」という選択肢があります。ですが、そうなると当然一つの家計で二つの世帯分の生活費がかかってくるわけで、家賃は2倍になり、光熱費などの生活費も大幅に増えてしまいます。
お互い合意の上で別居が始まるのなら、金銭面においても話し合いができるのかもしれませんが、そうでない場合、きちんとした対処ができないまま、ズルズルと別居を続けてしてしまっているケースが多いようです。
この記事では実際にあった話を交えながら、婚姻費用(別居中の生活費)について説明したいと思います。
勝手に出て行ったと言って払わない
その夫婦はお互い40代で、中学生と高校生の子供がいました。妻は夫からの暴力を日常的に受けていたのですが、外面が良い夫だったので、周りは全く気づかなかったようです。
一見優しそうで真面目そうに見えるのに、閉ざされた「家」という空間の中で、弱い者に暴力を振るう・・。DVをする人の典型ですね。この方は子供たちの支えもあり、なんとか自力で別居にふみきることができました。
子供たちは学費がかかる年齢だったため、お母さんは夜も昼も働いて生活費と教育費を稼ぎ、高校生の子供は勉強をしながらも、一生懸命バイトをして家計を助けてくれたそうです。ご主人は「勝手に出て行ったのだから」と言って生活費を一銭も払ってくれなかったそうです。
一方的に出て行った配偶者には生活費を渡さなくても良い?
NO
ただし、例外もあります。たとえば浮気をして出て行ったなど、明らかに相手に非がある場合。
別居中の生活費(婚姻費用)の支払いは義務
別居中であっても夫婦であることには変わらないので、「勝手に出て行ったのだから、知らない!」みたいなことは本来は許されることではないんですね。弱い立場にいる人ほど、このような理不尽な言葉に泣き寝入りしてしまっているケースが多いです。
別居中の生活費は「婚姻費用」というものです。別居した時に、双方同じくらいの生活水準に保たれるように、収入の多い方が少ない方にお金を渡すことが義務なのですが、DV夫の元から逃げるために別居に踏み切ったこの方も、そのことを知らずにいたようです。
実際にどのくらい支払われるのかは、ケースによって違いますが、中学生と高校生の子供を連れて別居したこの方の場合、仮に妻の年収が年収240万円で、夫の年収が930万円だったとするとこのようになります。
この状態で別居をしたとして、夫が妻に生活費を全く渡さなかったら、妻側の生活水準が著しく落ちることになります。裁判所が標準的な生活状況を想定して作成した「婚姻費用算定表」によると、月額20~22万円の支払いが目安になります。黄色の部分が生活水準の偏り。これを婚姻費用で埋めるというイメージです。
婚姻費用はなぜ払わなくてはいけないの?
別居中でも婚姻関係が続いている限り、生活水準に偏りがあってはいけないから
生活費を払ってもらえないのに、離婚も拒否されると?
DVをする人の特徴として、やった後に反省したそぶりを見せたり、信じられないほど優しくなったりします。この人の夫もまさにその典型で、別居した後に、「反省している」とか「もう二度としない」とか「自分が悪かった」などと言っていました。
これは本当に反省している訳ではなく、自分にとって都合の良い相手がいなくなってしまうことへの恐怖であり、結局自分のためです。実際に、このようなことは何度繰り返されていて、許してしまうとまた同じことをされていたそうです。
そんな人ですので、自分勝手な言い訳をして離婚を拒否します。生活費も入れてもらえないのに、離婚もしてくれないという時間が続くと、実際の生活は母子家庭と変わらないのに、離婚すればもらえるはずの児童扶養手当などの助成金が受けられなくなってしまいます。
子供が高校生や大学生の母子家庭であれば、授業料の免除や奨学金などをもらえる場合もあるため、婚姻費用も払ってもらえない、離婚もしてくれないという状況は、経済的にとてもよくない状況なわけです。
婚姻費用をもらえない、離婚も拒否されるとどうなるか
母子家庭であればもらえるはずの助成金も、もらえないという三重苦に
婚姻費用をもらえず、離婚もできない状況を脱するには
両親や親族、友人などに相談する
このような状況で1人で悩んでしまうと、突破口が見つからないまま、ズルズルと苦しい生活を続けてしまったり、相手の思惑通りになってしまうことがあります。まずは信頼できる身近な人に相談するのが良いです。
弁護士に相談する
弁護士への相談は、お金がかかるイメージがあり、ハードルが高く感じるかもしれませんが、最初の1時間は無料とか、1時間5,000円とか。1万円ほどで相談に乗ってくれる弁護士もいます。
自分の状況を整理して、短時間で効率よく説明することができれば、安い金額でも的確なアドバイスを得ることができます。そのあと慰謝料請求や財産分与などをまとめてもらおうと思ったら、別途契約が必要になります。
相手がDV夫ならば、なかなか当事者同士で話し合いをすることは不可能でしょうから、弁護士から内容証明郵便で、婚姻費用請求の意思を伝えることもできます。弁護士からの通達は相手にプレッシャーを与えるという点で、効果が期待できます。
家庭裁判所に行く
家庭裁判所に行くと、婚姻費用分担請求調停の申し立てができます。「調停の申し立て」と聞くと、なんだか大変に感じるかもしれませんが、話し合いによる解決ができるように手伝ってくれるというだけのものです。
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に行き、必要書類に記入をして提出をしましょう。申し立てに必要な費用は収入印紙代や連絡用の郵便切手代など。2,000円ほどで済みます。
申立書は相手方にも送付されますが、DV被害者など、相手に住所を知らせたくない場合は、そのような手続きをしてくれます。話し合いがまとまらなかった場合、自動的に審判手続きが開始されます。
婚姻費用を払ってもらえないこともある
別居中の生活費(婚姻費用)は、残念ながら払ってもらえないこともあります。収入の高い方から低い方に払うものであるため、相手が自分よりも収入が低い、もしくは同じくらいだった場合は払ってもらえません。
さらに慰謝料や養育費については、相手側に支払う義務があったとしても。経済力がないことを理由に、支払いを渋ることがあります。
たとえばギャンブルで借金を抱えていたり、仕事がうまくいっていない場合などは、払ってもらえない場合もあるということは理解しておきつつ、強制執行などの法的措置についても調べておきましょう。
養育費や慰謝料が支払われなくなった時の対処法
まとめ
たとえ別居をしていても、夫婦である限り双方で経済的に協力しなくてはいけないのです。別居中の生活費は婚姻費用と言い、収入の高い方から収入の低い方に払うのが義務となっています。
もしも生活費も渡してもらえず、離婚の意思が堅いにも関わらず、離婚も拒否されているのなら、婚姻費用の分担請求や離婚の申し入れなど、公の行動を早めにした方が良いでしょう。
そもそも離婚や別居など、人生で何度も経験することではないので知らないのは仕方がないことかもしれません。離婚に踏み出す第一歩として、別居を選択することはメリットもありますが、長く続くとデメリットもあるということも知っておきたいですね。